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事例紹介

USE CASE

スカパーJSAT株式会社様 導入事例

  • web3

web3で"エンタメ体験のアップデート"を目指す「スカパー!投票」オープンソースを扱ってきた目利き力でサポート

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■web3による新サービス「スカパー!投票」を2023年12月から開始

 スカパーJSAT株式会社は、有料多チャンネル放送サービス「スカパー」の株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズと、民間通信衛星を運営するJSAT株式会社、衛星通信事業の宇宙通信株式会社の3社が、2008年に合併してできた会社であり、宇宙事業とメディア事業を両輪とする国内唯一の「宇宙実業社」だ。

 このメディア事業の中で、web3による新サービス「スカパー投票」の提供を202312月から開始した。第1段として、アイドルイベント「新スカパー アイドルフェス 〜冠番組をかけたアプガ決戦〜」にて実施。投票チケットをファンに配布・販売し、ファンの投票によってコンテンツが変わる仕掛けや、デジタルチェキの販売を行った。

 「スカパー投票」はその後もスポーツや韓流アイドルなど、各エンタメ分野でのイベントに合わせてサービスを提供した。本稿執筆時点では、実際のフライトとAR技術を融合させた航空レースイベント「AIR RACE X」において、イベント体験のデジタルチケットの販売や、デジタルチェキの販売に加えて、それぞれの購入者が参加できる勝者予想投票を行っている。

 web3という新しい技術を活用したサービスを立ち上げた背景としては、メディアやエンターテインメントの業界の先行き懸念があったと、スカパーJSAT株式会社 メディア事業部門 メディア事業本部 本部長代行 兼 新領域事業部長 石田亘氏は語る。

skyperfectjsat_01.jpgスカパーJSAT株式会社
メディア事業部門 メディア事業本部 本部長代行 兼 新領域事業部長
石田 亘 氏

同氏の率いる新領域事業部は、2022年4月に発足した。当時、メタバースやAI、ブロックチェーンなどの新しい技術トレンドが次々に登場しており、「そうした新しいデジタルテクノロジーによって新しい収益を作っていこうと考え、検討をスタートしました」と石田氏は振り返る。

その中でも、ブロックチェーンは、メディア・エンタメビジネスと相性がいい技術ではないかと考え、検討をスタートした。「例えば、エンタメ業界の知的財産・著作権に関する権利保護の体系は、日本では1960年ごろにできあがったと言われていますが、60年たった今、時代に合っていないとの指摘や、新しいデジタル技術を上手く活用できていないといった意見があります。それをブロックチェーンの技術を活用して、権利保護をしながら知財・著作権をさらに有効活用するビジネスができるのではないか、そんな"エンタメ体験のアップデート"をも目指してweb3サービスを立ち上げました」と、スカパーJSAT株式会社 メディア事業部門 メディア事業本部 新領域事業部 M&A・事業開発担当ディレクター 上垣健吾氏は語る。

skyperfectjsat_02.jpgスカパーJSAT株式会社
メディア事業部門 メディア事業本部 新領域事業部 M&A・事業開発担当ディレクター
上垣 健吾 氏

 

■技術ありきではなく、今後求められるサービスを目指した調査と開発

ただし、スカパーJSATは、最新デジタル技術の専門事業者ではなく、上垣氏もブロックチェーンがどう動き、どう活用できるのか十分にわかっていなかったという。そこへ、スカパーJSATがweb3のベンチャーであるフレームダブルオー株式会社(Frame00)に出資したことをきっかけに、Frame00CTOからサイオステクノロジー(以下、サイオス)を紹介された。

 まずは20238月ごろから、web3とブロックチェーンの技術や技術を活用したアプリケーション群についてサイオスが調査し、毎週のように報告した。ブロックチェーンの基礎から、最新の動向までのレポートが数か月続いた。そのあと、NFTの販売機能やNFTを利用した投票機能等、実際に利用可能なプロトタイプをサイオスが開発し、これを使ってどんなことができるのか含めて、幅広く事業が技術の可能性を検討した。

「スカパー投票」の商用システム開発は他社が担当したが、サイオスは開発にあたりスカパーJSAT側に立って開発プロセスなどのチェックやアドバイス、総合評価を行い、無事に12月のローンチを迎えた。

実際に「スカパー投票」でブロックチェーンを使って実現したものとしては、まず、その名のとおり投票の機能がある。エンタメ業界では、これまでさまざまな投票が行われてきたが、不正なく投票されているか、あるいは、投票結果が改竄されていないか、疑義を持たれることがあった。「ブロックチェーンを使うことで、嘘偽りのない結果を示すことでき、ファンにとって信頼できるエンタメ体験を提供できるのではないかと思いました」と上垣氏は言う。

 また、スマートコントラクトを活用した、デジタルアイテム・NFTの二次流通時のクリエイターへのロイヤリティ自動還元にも取り組んだ。たとえば、本やCDなどの商材は、新品を買った代金はクリエイターに一部還元されるが、中古の流通では還元されない、という社会課題が存在する。クリエイターや知財保護の観点からは、二次流通取引においてもクリエイターが還元を受けるのが望ましいことがある、と上垣氏は主張する。「クリエイティブ物が購入された際には、確実にクリエイターに一部でも還元できることが実現できれば、創作活動がさらに促されます。エンタメ産業の発展のためには、こうした仕組みを実現することは有効だと考えています」(上垣氏)

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ブロックチェーンの調査を踏まえた実際の事業検討にあたっては、技術ありきではなく、どうすればエンタメ体験をアップデートできるのか、今後求められるサービスは何か、という点にフォーカスして検討しいった。メディア業界では、YouTubeTikTokなどの新しいサービスで、誰もがクリエイターとして活躍できる新しいトレンド、クリエイターエコノミーが拡大してきている。クリエイターエコノミーのトレンドが進む中、web3の特徴の一つである"Own"の考え方は親和性が高い、と上垣氏は考える。様々なクリエイターが作った制作物を、ファンは単に視聴するのではなく、クリエイターと一緒に育て、さらには、一部権利を所有(Own)する。こうした発想を実現可能なブロックチェーン技術を用いることで、権利関係を柔軟に設計し、権利保護・利活用につなげられるという。

 「たとえばアイドルイベントも、従来はイベントの制作者が企画を考えて、ファンにパフォーマンスを披露するという、どちらかというと一方的なサービスでした。それが、SNS"いいね"を押すような、ある種双方向なものが生まれました」と上垣氏。そこからさらに一歩進んで、ファン投票で企画や演出の内容を決定していくという動きが出ており、実際に、「スカパー!投票」の最初のアイドルイベントにて試みた。「みんなで一緒になってエンタメ体験を創っていく、みんなでイベント・コンテンツに関与していく、という流れが起こり得ると考えたとき、ブロックチェーン技術は相性がよく、その波に乗っていきたいと思いました」(上垣氏)

 

■オープンソースを扱ってきた知見に基づく柔軟な対応

 サイオスにおいても、web3やブロックチェーンについてある程度の調査はしていたものの、本格的に調査検証や開発にまでは至っていなかった。そこへスカパーJSATから声がかかり、自身が新しい技術にチャレンジするつもりで取り組んだと、サイオスのプロフェッショナルサービスSL シニアプロジェクトマネージャ 香西隆史は語る。

skyperfectjsat_04.jpgサイオステクノジー株式会社
プロフェッショナルサービスSL シニアプロジェクトマネージャ
香西 隆史

 プロトタイプ開発では、web3だからこそ提供できるユーザー体験を意識して開発を進めた。「web3はまだインターネット黎明期のような状態で、技術的な課題も多くありました。その中でユーザー体験を損なわずにサービスを提供するため、海外の事例を調査しながら、プロトタイプを開発しました」と、サイオスのプロフェッショナルサービスSL エンジニア 佐々木寛太も言う。    

skyperfectjsat_05.jpgサイオステクノジー株式会社
プロフェッショナルサービスSL エンジニア
佐々木 寛太

まだ成熟していない分野であるため、課題や苦労もいろいろあった。まず、ブロックチェーンでは各自が暗号資産を管理するウォレットで秘密鍵を管理する。これをいかにセキュアに企業側で管理するかを意識して開発した。

また、ブロックチェーンを意識させないUI/UXの実現を意識して開発を行った。具体的にはユーザーがウォレットや署名行為を意識せずにサービスを使用するための方法や、ブロックチェーンを使用すると通常のウェブサービスに比べて応答速度が遅くなる問題をどのようにクリアしていくかの検証に取り組んだ。     

 金銭に関わる分野なこともあり、法制度に関しては、スカパーJSATとサイオスに、法律家を交えて調査を行った。たとえば、ウォレットの管理においても、暗号資産交換業の登録や各種許認可がなくても対応できる範囲の業務を検討した。そのほかにも、法務、財務、税務、マネーロンダリング対策などさまざまな法制度が関係する。各項目について、何が法制度に抵触するのかどうか、細かく調査した。

 こうしてサイオスと課題検討に取り組んだことについて、上垣氏は、サイオスの知見・過去の経験を基にした柔軟な対応を高く評価する。「サイオスさんはもともと、オープンソースソフトウェアの世界で、玉石混交のオープンソースの中からキラリと光るものを見つけて利用促進を図っていくということを長く手がけてきました。その活動はブロックチェーンの世界でも共通するものがあると思います」と上垣氏。そうしたサイオスのノウハウもあり、スカパーJSATがブロックチェーンを活用してこんなことをしたいという要望に対して、サイオスは、様々なブロックチェーンの世界のオープンソースをくみ取りながら、柔軟性に検討し、要望に対する最適解を提示していった。「オープンソースを長年扱われてきたからこそ、我々の要望に対して柔軟に対応いただけた     と思っています」と上垣氏は語った。

 

■将来に向けて、インターオペラビリティ(相互運用性)に着目

 今後、エンタメ体験のアップデートを狙っていくにあたって、ブロックチェーンのインターオベラビリティ(相互運用性)についても着目している。つまり、スカパーJSATで発行したデジタルアイテム・NFTを他社のサービスプラットフォームでも使える、あるいは反対に他社のサービスプラットフォームで発行したデジタルアイテム・NFTをスカパーJSATのサービスでも使える、というブロックチェーン技術が実現しようとしているものだ。「国内通信会社各社にて、次世代の通信・インターネット基盤を築いていこうという動きがより大きくなっているように思いますが、われわれはどの基盤とも接続・連携していけるようなサービスを提供できることを重視しています」と上垣氏は言う。

 こうした今後に向けてサイオスに期待することとして、石田氏は「本当にチャレンジングな試みなので、自社だけではできないと思っています。サイオスさんようなパートナーと組んで、変化し続ける世界の中でポジションを確立していければと思っています」と答えた。

 また上垣氏も、「新しい技術が次々に登場するため、引き続きサイオスさんがOSSで培われた見識を踏まえて、総合アドバイザーとして相談させていただきたいと思っています。それに加えて、今回プロトタイプを作りましたが、一緒になって物を作っていきたいと思っています」と語った。

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■ 会社概要

会社名 スカパーJSAT株式会社
(SKY Perfect JSAT Corporation)
所在地 〒107-0052 東京都港区⾚坂1-8-1
⾚坂インターシティAIR
設立 1994年11⽉10⽇
事業内容 宇宙事業、メディア事業